今日までとても長い5日間だったよ。 お産がこんなに大変なものなんて知らなかった! 人にもよると思うけど、60時間以上陣痛が続いたのでかなりきついほうだったと思う。連日の睡眠不足には慣れているが、精神的な緊張状態と組み合わせるとさすがに疲れたなあ。今も、通常ならかなりの睡眠不足なのでいつ寝てもおかしくないはずなのに、疲れのせいかむしろ眠れず、ブログなどを書いている。 どんな感じだったか、思い出しながら書いてみる。包み隠さずに僕が思ったことを書いているからちょっと怖いけどね。きっと医療の知識があれば怖くないんだろうけど、「大丈夫、よくあることだから」と看護婦に言われても、何もわからない僕にはとても怖かった。だから、実はそんなに怖いことではないけど、僕が慌てていただけ・・・という客観的視点で読んでね。 ■入院、陣痛促進剤の投与が始まるが、産道がなかなか開かない 日曜の夜に入院し、陣痛促進剤を投与した。ひたすら続く陣痛。でも産道が開かない。陣痛促進剤の投与量がどんどん増していき、奥さんは苦しんでいるが赤ちゃんがおりてこない。奥さんはそれでも無痛分娩を拒み続ける。 1時間おきにくる看護婦。奥さんは痛みで集中力が低下しているから僕が通訳。看護婦が来ない合間は、水をのませ、体を拭き、マッサージし、トイレにつれていき、部屋のものをとり、体の向きを変え、一緒に部屋の外を歩き、なんかとにかくいろいろ一緒にしていた。二人とも、寝ていないし、どうせ寝てもすぐ看護婦に起こされる。8時間おきに変わる看護婦。もう何周もしている。寝られるときに寝られるように部屋はいつも暗いため、晴れているのか、雨なのか、朝なのか、夜なのか、だんだんわからなくなり、時間の感覚もない。 ハーバードのセクションメイトのドイツ人の女の子が奥さんにメールを送ってきた。文末、「Biiiig hug, be strong and lots of love, Carolin」(とっっっっても大きな抱擁を!強くなって。愛を込めて、キャロリン)。奥さんは、痛みに耐えながら「強くなれってキャロリンが言っていた」とかすかな声で言う。こういう大変なときは、友達の支えがとても助かるよ。 別の陣痛促進剤にするか?陣痛促進剤を増やすか?外から破水させるか?医者が現れては、意思決定をせまられる。ここまで我慢してもだめならと、次々手法を変えるたび、奥さんの体につながれたチューブの数が増えていく。 激しい陣痛の中50時間が経過。奥さんの体力の限界が近いため、ついに背中から麻酔を投与。まずは少量で様子を見ながらということで、奥さんはまだ痛がっている。麻酔の量が増えていくに従い、ようやく痛みは治まってきたが、産道がまだ開かない。 ■赤ちゃんの心拍低下 次の朝・・・つまり4日目早朝になり、うとうとしていたところ、目を空けると看護婦が沢山集まっている。突然、あかちゃんの心拍数が異常に下がったらしい。一気に目が覚めた。奥さんに酸素マスクをつけ、赤ちゃんの酸素量を増やしている。時々あがった心拍の数字を奥さんに説明して、「大丈夫だよ」と元気付ける。無事に心拍が上がり、心拍が安定。ほっとする。 しかし朝方、再び心拍が低下。看護婦たちが飛び込んでくる。 恐ろしい。どうか、無事に生まれて欲しい。明日になったら、なんてことなかったと笑えるだろうか、もしそうなら早く明日になって欲しい。看護婦は必死で奥さんを元気付ける。「Sweetheart, you are doing a great job. Your baby is coming. He will be okay. He will be okay.」僕が「どういうことなの、これは危険なの?」と聞くと、「心拍が下がっても、30分は命に別状はない」といわれて少し安心した。10分ぐらいしてからだろうか、再び心拍が安定したのは朝6:55、気づけば部屋は看護婦だらけ。処置を終えた看護婦たちは、すがすがしい安堵の表情を浮かべた。一人が、手袋をはずしながら「もう7時ね。知ってた?あなたたち、朝7時までのシフトの看護婦全員に会ってるのよ」と微笑んで、部屋はまた闇と静寂に包まれた。 ■自然分娩から、帝王切開に変更 4日目朝8時。産道が少し開いたが、ペースが遅すぎる。もう陣痛開始後60時間が過ぎた。担当医が来訪し、奥さんに言う。「心拍の低下からして、へその緒がどこかに絡まっている可能性が高い。また、赤ちゃんがおおきいせいで、いくら陣痛が来ても産道が開いていない可能性がある。しかも、母体の体力の限界が近い。嫌なのはわかるが、帝王切開をするのが賢明だと思う。君はよくやった。君は自分のことを誇りに思うべきだよ。」 再びことは急展開しすぐに帝王切開の準備が始まる。青い手術用の服や帽子が渡される。奥さんは手術室に運ばれた。手術の準備が整い、僕は部屋に呼ばれ、奥さんの頭の横に座る。へとへとになった奥さんの頭をなでながら元気付ける。今回は、僕には何もできない・・・どうか、がんばって・・・。 手術はすごい速度で進む。手術開始後3分ぐらいで、いきなり産声が聞こえた。 ああ、産まれた・・・。 立ち上がると、赤ちゃんが摘出されているさまが見える。酸素がないためまだ色が白い。すぐに血が拭かれ、暖かなベッドに移される。テレビとかで聞くあの産声、そのまま。それが、今は僕の子の声なのか・・・。 はさみを渡され、へその緒をはさみで切る。へその緒ってすごい白くてつやつやしてる。なんかイカみたい?不思議。切る感覚も・・・イカみたい?そんなことぐらいしか頭に浮かばない。アホになっている。 あかちゃんを抱いて奥さんの顔のそばにつれていく。動けない奥さんは泣きながら、あかちゃんの頬に頬を合わせ、ずっと何かをつぶやいていた。 ■すぐに看護室へ移動 僕は看護婦に導かれ、手術室を出て、赤ちゃんの検査のために看護室へ。奥さんはまだ処置があるので手術が続く。 赤ちゃんがあまり泣かない。酸素のレベルが低いせいで、色が白い。血中酸素レベルの測定器が最低値を下回ったと警戒音を鳴らすので怖くなる。看護婦さんが「大丈夫よ、よくあることだから」というのだが、大丈夫なのか大丈夫でないのかわからないのでいちいち心配になる。 一方で、奥さんの手術が大丈夫だったか気になる。奥さんの部屋にとりあえず向かうと、奥さんは静かに横たわっていた。目を覚ましたとき、「赤ちゃんは元気だよ!」とだけ伝えた。奥さんは意識が朦朧としている。麻酔のせいか、極度の疲労のせいだろうか。赤ちゃんの看護室に戻る。酸素レベルはある程度上がったようだ。よかった・・・。 ■奥さんの体調が安定せず、バタバタ すぐに、最初の授乳が行われる。奥さんは笑って喜んでいるが、意識がはっきりしていない。必死に目をあけて、授乳している。なんとか、ミルクは出たのだろうか・・・?赤ちゃんを看護室に戻して部屋に戻ると、奥さんの血糖値が異常に高く意識がはっきりしない軽い昏睡になっていることがわかった。すぐに看護婦が現れ、インスリンが投与される。おかしい・・・産後にこんなに高くなるなんてはずは・・・このまま血糖値が下がらなかったら? いつの間にか時間がたった。夕方かもしれないが、よくわからない。本来は奥さんが授乳のはずだが、奥さんはクラクラでそれどころではない。僕もさすがに倒れそうだ。奥さんのご両親に状況報告したり、うちの両親に経過を報告したりしなければならないが、僕自身も状況がよくわからないし疲れて何もできないので、とりあえず寝ようとする。でもすぐに看護婦が血糖値を計りにくるので結局眠れない。夜、インスリンが切れてから血糖値を計る。正常値だ。これで、大丈夫だといいんだけど。 […]