人生には、攻めのときと、守りのときがある。
大抵、ビジネススクールをでたときは攻めに転ずると思うが、僕の状況では守りが必要だ。
借金あり、職なし、妻あり、子供がもうすぐ生まれる、このタイミングでは守りをキッチリ固めなければならない。
ボストンでの内定を断ってシリコンバレーに引っ越すという時点でリスクテイカーだと言われているが、ハーバードの保険が7月末まで有効という時点でマネジメントできないリスクは大してないわけで、失敗ばかりして生きている僕は元来かなり慎重派である。
マネジメントできないリスクはとってはいけない・・・ディフェンスあってのオフェンスだ。
何の話?
いや、就職活動の話。
今、2社の選択肢がある。ここから決めることにした。他にも話はあったが、とりあえずはここで考える。なんでこの2社か。
両方ともそれなりに面白そうだということもある。では、完全にピンときたか?といわれると、まだ、わからない。しかし、今はそんな贅沢いってる場合じゃない。大事なのはディフェンスだ。異国の地にやってきて、中途半端な英語にも関わらず、マネジメントレベルで、ベンチャーで働くとかいう時点でリスクは十分に高い。では、どうやってディフェンス力を上げるか?
僕にとってのディフェンスの要は、4つ。
1. 家族のふつうの健康管理の確保→健康保険
アメリカは、仕事がないと健康保険が下りないというすごいシステムなので、妻と生まれてくる子が保険でカバーされるには、すぐに仕事が必要だ。当然保険がなければ日本に帰る必要があるが、けっこう面白そうな内定が目の前にあるのだから、まずはグダグダいわずに就職して健康保険を手に入れるべき。
いつもだったら、もう少し時間をかけて就職先を精査するが、このタイミングは攻めるところじゃない。ビジネススクールでておいて何だが、所詮ビジネスだ。気に入らなければやめればいいのだから、やってみて考えればいい。
2. 家族のふつうの生活の確保→永住権
アントレプレナー(起業家)という職業は、基本的に失敗と隣りあわせだ。雇用契約書には「あなたは会社を即座に辞められるし、会社はあなたを即座に解雇できる」と書いてあるわけで、パフォーマンスが悪ければ簡単にクビである。また、ベンチャー企業が来年倒産する可能性は十分考えられる。誰が聞いても成功するビジネスモデルだとしたらすでに企業価値がふくれあがった有名企業であり、そうでないハイリスクの状態だからベンチャーなのだ。
何が困るかというと、クビとか倒産とかそのものではなく、Visaである。H1Bなどの通常の労働Visaは、解雇・倒産の場合、家のローンが残っていようと、買ったばかりの車を持っていようと、子供が学校に通っていて友達が沢山いようと、基本的にすぐ他の仕事がない限り国外退去である。これでは家庭の安定を会社が決めることになってしまう。家族の生活が会社に依存すれば、会社に弱みを握られる事になる。そうなると、やりたくない仕事をやらされたり、ネゴシエーションの主導権を会社側にもたれてしまう。これはとても不健全なことなので、やりたくない。
しかし、永住権(Green Card)の取得があれば、解雇・倒産されても何も起こらない。家族にも影響はないし、「文句があるなら僕をクビにしろ」と普通に言えるようになる。これはディフェンス力をものすごく上げる。
3. ネガティブ・サプライズの最小化→王様のいない株主構成
株主がだれか。株主構成がどれぐらい分散しているか。これはものすごく会社の方向性を左右するファクターだ。
ベンチャーの経営者は、どんなに粋がってもたいていは経験が浅い、オトナのアドバイスが必要な存在だ。一方、株主は、会社の最終意思決定者であり、オトナとしてアドバイスする役割がある。この経営者と株主とは普通の会社では分離しているが、ベンチャーの場合ファウンダー(会社を設立した人)=独占的大株主、という場合がしばしばある。
ファウンダーの持分が高いと、ファウンダーは誰にもチェックされない王様となることができる。会社の経費も人事もやりたい放題だ。「だってあいつ俺より優秀だからいやなんだモン」と活躍中のメンバーを解雇できるし、「だって今の戦略がいいんだもん」といって変な戦略で会社をつぶすことができる。ファウンダーは全ての意思決定権を独占しているので他の従業員が何を言っても無駄、これが「オーナー企業」の宿命で、こういうところで働くのはネガティブ・サプライズのリスクが高い。
僕からすると、ファウンダーの株式持分の割合が低く、外部投資家が株を分散してもっているのが好ましい。投資家というのは会社が成功することにしか興味がないので、投資家の介入は経営の意思決定をプロフェッショナルなものにし、ファウンダーの私情による意思決定を許さない。色々な領域の人が集まり討議して決めることになるし、問題があれば投資家たちがもっているネットワークを活かして組織的に解決ができる。経営の質が個人ではなく組織に依存するようになれば、とんでもなくおかしな決断はされなくなり、ネガティブ・サプライズが減るのでディフェンス力があがる。
ただ、オーナー企業がだめというわけではない。ファウンダーの経営手腕が非常に優れており、失敗した経験から色々学んでおり、経営に私情を挟まないタイプであれば、オーナー企業であっても会社を魅力的にすることは可能だ。しかし、それにはオーナーが友達であるなど、個人として良く知っているのが条件だ。
4. 交渉力の維持→能力と仕事内容のフィット
会社に対する交渉力というのは、入社の契約時点でもっとも重要だが、入社したあとも継続して重要となる。そこで、会社に対する交渉力を維持するためには、以下の二つがそろっている事が大事だ。
- 会社は、僕でなければならない
- 僕は、その会社でなくてもいい
これはかなり難しい話ではあるのだが、これを実現するには以下の条件を考えれば大体わかる。
- その会社が必要としている人材が非常に具体的
-
その会社が必要としている人材を見つけることに苦労している
-
自分がその必要としている人材である
要するに、後先考えずにハーバード卒だから雇いましたみたいなケースだと、また後先考えずに解雇されたりする。しかし、僕が先方がどうしても欲しい人材であれば、交渉力が一気にあがる。こうなれば一番リスクコントロールがしやすく、ディフェンス力が一気にあがる。
というわけです。
この4点が問題ない会社で働きたいというよりも、今はディフェンスが重要な時期なのでこの4点は足きり基準ということ。もし、2社とも足きり基準にかからなければ、今度は攻め・・・つまり、オフェンス面での評価をする必要がある。僕の場合、オフェンスの評価基準は以下のとおり。
- よいチーム
- その会社がもっているネットワークの質
- 自分の業界でのポジションを築くのに必要な成長機会
- 普通株およびストックオプションの価値
が、今はディフェンス重視なので、とりあえずそれはまたいつか。