アメリカでの就職の話 (5): 転職

家を出て行くことにショックを受けている同じ日に、面接していたベンチャーキャピタルのGlobespan Capital PartnersにいるHBSの先輩からも電話が来た。どうも、Globespanのトップとの電話が週末明け(3日後)の月曜日に入ったらしいが、「この不景気で人を増やすべきか」という話が社内にあるので期待できないと言われた。

しかし、どちらにせよすでに9回裏でツーアウトなので、これが最後の勝負。万が一内定をもらえたときに備えて戦いの準備が必要である。アメリカのベンチャーキャピタルのパートナーというのは交渉のプロ中のプロであり、超強敵なので条件交渉にはかなり周到な準備が必要。相手が切ってくるであろうカードを想定して、こちらが切り返すカードをある程度決めておく・・・例えば「不況だからMBA卒の平均給与は下がっているはずなので○○ドルが妥当」ときたら「2008年と2009年とのオファーの平均額は○%しか変動しておらず、ベンチャーキャピタル業界の給与平均についても○%しか変動していないのでフェアでない」と切り返す・・・といった細かいシミュレーションを繰り返し、ロジックとデータをガンガン組み立てていく。

ついさっきの「家でてけ事件」で精神力が残されていない僕がこの集中力の要る作業をするのは難しく、どうせ内定なんて出ないとさじを投げて箱根の温泉にでも行きたい気分だったが、箱根は遠いので最後の力を振り絞る。

週末かけてノートにびっちりと戦略を用意して挑んだ月曜日、予定通り電話が来た。

ここが勝負。さすがの単細胞・能天気な僕もこの瞬間は本気になった。

夢のような仕事を手に入れるか、諦めて日本に帰るかの二つに一つ。どちらになるか、全くわからないが、悔いの無い戦いをしよう。

がんばろうと、ノートを準備した。

そして・・・

オファーの内容は、満足のいくものだった。そのノートは、全く使うこと無く、終わった。

4月の頭に家を30日以内に出て行けと言われていたが、僕たち家族はそれより前の2009年4月末、友達が沢山いるボストンの町に引っ越した。

あれから数ヶ月たったが、おかげ様で今は信じられないぐらいに楽しい仕事をさせてもらっている。HBSの教材に出てきた起業家達と密接に仕事をし、取締役会に出たり、ファンドレイジングを手伝ったりしながら、苦楽を共にするのは本当にエキサイティングだ。それに、アメリカのテクノロジーを日本に展開させ、日本で雇用を生み出し経済を活性化できるようになりたい。

でも、アメリカのキャリアというのは、日本人の感覚と違い、「どこで働いているか」ではなく「何ができたか」なので、まだ何も目標は達成されていない。むしろ、勝負はこれからだ。新しい業界、新しい仕事というプレッシャーの中で、自信がもてるようになるまで、がんばりたいと思う。

と、いうのがここ一年のアメリカでの就職のお話でした。

つづく・・・次が最終回

4 replies
  1. koji
    koji says:

    いつも楽しく拝見しております。

    >アメリカのテクノロジーを日本に展開させ、日本で雇用を生み出し経済を活性化できるようになりたい。

    に関しましてすばらしい志だと感銘を受ける一方で、私が普通に考えると海外のテクノロジーの浸透は日本の雇用と経済の非活性化につながるのではないかと思ってしまいます。
    活性化につながるストーリーが私の頭では描けないでいます・・・。

    Reply
  2. yokichi
    yokichi says:

    kojiさん、

    すごくよくわかります!ただ、効率化・自動化して便利になると人が解雇されるよね、とか、輸入するより輸出したほう儲かるよね、という一般論とごっちゃにするとわからなくなってしまいますけれど、ここまでグローバル化した社会ではアメリカ製品が日本製品を駆逐するから日本が衰退みたいなシンプルな話はあまりなく、ちゃんとお金の動きを見ると意外と貢献してる面も多いのです。(モノによりますが)

    僕のまわりでも、海外ベンチャーが日本の自動車やゲーム産業を支えたり、つぶれそうな会社の利益を創出して支えたり、新しい産業を生み出して景気を上向かせている例が沢山ありますので、いくらでも自分でストーリーは描くことができると思います。

    僕はテクノロジーが世の中に新しい価値をもたらすというポジティブな面が好きなので、今後、ここで何かできたらいいなぁと思ってます。

    Reply
  3. koji
    koji says:

    丁寧なご返答恐縮です。
    なるほど、表面だけではわからないですね。
    新幹線を海外に展開する動きを心強く感じ、iPhoneがDSやPSPの脅威になりつつあることを憂えるという単純発想でいました。
    自動車産業などモノづくりにおいては最近のアメリカは元気がないですので、アメリカ発の技術で日本企業を元気にさせてお互い発展していく道はいくらでもありますね。

    Reply
  4. yokichi
    yokichi says:

    kojiさん

    iPhoneの場合は、日本の携帯産業がすぐだめになることは皆わかっていたので、どちらかというとこれは日本企業の戦略の問題です。また携帯がゲーム機を置き換えるのはiPhoneより前からのトレンドですね。

    ユニクロも成功した日本企業ですが中身は中国ですね。ちょうど池田信夫さんがこれに関してブログかいてらっしゃいます。 http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/94d7da65e3eb27211bbc98a66c7b3663

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