搾取されないためには選択肢を増やすしかない
ブラック企業は今後とも蔓延するだろう。政府は今後ともサービスの質を改善することなく増税し続けるんじゃなかろうか。
そう思う理由は、こんな感じ:
- ブラック企業も、日本政府も、慈善事業ではないのでプロとして合理的な取引をしているだけ。取引では、交渉力のある相手が、交渉力のない相手から、限界まで搾取するのが基本。
- 多くの日本人には選択肢がないので、交渉力がない。(収入を正当化するスキルがないこと、意思決定時にリスクとリターンのバランスを取れないこと、日本語以外で実務上のコミュニケーションが取れないことなど、色々な理由によって。)
僕が思うに、ブラック企業が成立するのは、企業が悪である時ではない。企業は社員の交渉力に応じて自然な反応をしているだけだ。社員がブラックなほどに選択肢がない時にのみ、ブラック企業は成立する。搾取しても、どうせ社員はいいなりで、やめないからである。
税金あたりの国家サービスの質がこれから下がり続けると思うのは、政府が悪だからではない。国民が日本を出る選択肢がない時にのみ、政府は多額の財政赤字を補填するためにどこまでも増税することができる。搾取しても、どうせ日本国民は言いなりで、出て行かないからである。予算を削ったりするメリットは政府にはない。
日本政府や日本のブラック企業に文句を言う人が多いが、政府や企業は「選択肢が少ない交渉相手に対応したフェアな取引」をしているだけだ。
参考: 選択肢に応じたフェアな取引とは
取引の交渉時に搾取されないためには、選択肢があることが重要。
たとえば、あなたが1億円のダイヤを持っていたとして、あなたは10分以内にそれを必ず売らなければならないとしよう。それが本物かを鑑定できるのがあなたの周りに僕しかいないとしよう。僕は一億円の価値があると知っているとして、僕はいくら提示するか?それは、必ず1円である。なぜなら、あなたには他の選択肢がないと僕は知っているからだ。よって、他の選択肢である0円に1円を足せば、取引が成立する。僕が慈善事業ではなく取引をしようとしているのなら、親切に1億円を提示する理由はまったくない。
しかし、僕の横に、もう一人鑑定できる人がいたとしたらどうなるか?そうすると、あなたには「もう一人」に売るという選択肢が生まれる。交渉力は完全にあなたに移行する。あなたは、限りなく一億円に近い価格でそのダイヤを売れるだろう。なぜなら、僕は9999万9999円で買っても利益がでるからである。
あなたが搾取されるとしたら、それがあなたの実力だからではない。あなたに選択肢がない時には、あなたの価値は限界すれすれまで低く扱われるのだ。
まず、自分の問題であると認識しなければ始まらない
政府やブラック企業を憎むのは依存しているからだ。本人に選択肢があるなら、憎む前にとっくに笑顔で他の選択肢を選んでいることだろう。日本がダメだ、企業がダメだと言いながらそこに残るのは、それが自分が選んだベストな選択肢であるから、そこから離れないのである。
本来は、憎むどころか最愛の選択肢だ。その交渉相手の性質を否定したところで、短期的にすっきりするぐらいの効用しかない。
まずは、相手の問題ではなく自分の問題だと捉えなければ、状況を変える第一歩は踏み出せない。
選択肢は、得ようとしなければ得られない
ちなみに、真面目に税金払ったり、上司の顔色伺って死ぬほど働けば、いつか理解してもらって待遇が改善する、と期待するのは無駄というものだろう。
選択肢というのは、意図的に獲得するための活動を行わない限り獲得できない。やれといわれたことをやることが、選択肢を生み出すとは限らない。むしろ、彼らは「ありがとう」と言いながら永遠にあなたを搾取するだろう。
何をすれば選択肢を得ることができるのか・・・これはそんなに難しい問題ではない。友人などの話を聞いても、本当は何をすればいいのか、知っていることがほとんどだ。ただ、本人が「仕事で忙しいから、○○する時間がない」とか色々な言い訳をして、なかなか時間配分を変えようとしない。(・・・というと、具体的に何をすれば教えてくれないと何もできない、という人がいるが、大人の目標や状況を一般化してどうすればいいのか教えてくれるのは自分の親ぐらいしかいないでしょう)
交渉力がない人の多くは、極端に武器がない丸腰状態だ。武器を得るのは楽ではないが、時間をかけて、意図的に努力する人だけが、強みを構築できる。誰も守ってくれない世の中では、そうやって強くなるしか道はない。色々な理由をつけては「それはできない」というのは、結局は真剣に選択肢を得たいと思っていないか、交渉における選択肢の圧倒的なインパクトを理解していないのではないだろうか。
交渉の原則を変える方法はない
「そんなことをいっても、多くの人には交渉力を得るための努力はできないんだ!選択肢など強者の論理だ!」とか、「環境が恵まれている人だけが選択肢を得られるのだ!」という話はわかるが、僕が話をわかったところで交渉相手は考慮してくれないだろう。
泣いても笑っても、大きく見れば、働く条件というのはあなたのプライベートな時間を単価いくらで・どんな条件で取引するかという交渉で決まるという事実を誰も変えることはできないし、交渉には選択肢が必要というルールを変えることもできない。
交渉とは、戦いなのだ。相手が慈善事業でないなら交渉の場には血も涙もない。あなたは人生の限られた時間を売るプロであり、相手はそれを買うプロなのである。
これは日本だろうと何だろうと、万国共通のルールである。
残念ながら、「交渉力を得る努力をしたくない。でも有利な取引がしたい」、なんて甘い話は、世界のどこに行っても許されないのだ。
選択肢は、持っているだけで効果がある
僕は、会社を辞めろとか、日本を出て行け、という極端な話をしているのではない。ただ、必要ならば、そういう選択肢を実行できる状態にさえしておけばいいのだ。
「選択肢」というのは持っていること自体が交渉力を決定する。だから、交渉上、核爆弾は持っている事が大事なのである。使うことではない。もし、ほとんどの人に、会社を辞める交渉力、国を出て行く選択肢があれば、それだけでブラック企業は淘汰され、日本政府は改善される。
プロ同士の交渉では、「辞めたくない(日本を出る気がない)から選択肢を持つ必要はない」とはならない。使わなくても選択肢は得なければならない。相手もプロである以上、選択肢がなければ、猫かぶっても搾取されるだけである。
まとめ
- 会社で働くとか、税金を支払うというのは取引の話をしている。
-
取引というのは交渉力で条件が決まる。
- 交渉力というのは、選択肢の強さで決まる。
- 選択肢は、得ようと思って意図的に行動しないと得られない。
というわけで・・・
これは強者の論理でも何でもなく、誰でも知っている交渉の一般的な論理です。あなたが何かを買うとき、他の選択肢と比べて出してもいい価格を決めているのと基本的に一緒です。相手が個人でも法人でも政府でも選択肢がなければ交渉力が圧倒的に下がり、言いなりになります。
ここでその一般論を適用したのは、日本人の多くには今後も選択肢がないことが、現時点では企業や政府にはすでにバレバレだから、彼らはそう簡単に変わらないからです。企業は雇用の流動性が低いのを知っているし、政府は二重国籍を禁止して交渉力を奪っています。搾取される側が交渉力を意図的に伸ばさない限り、今後もブラック企業は蔓延し、これから政府が予算を削るより増税することになるでしょう。
苦しい状況にある人には、交渉相手が悪だという前提は一旦横に置いておいて、自分の選択肢が取引相手の交渉力を決めるという事実について考え、建て直しの戦略を本気で考えるべきだと思います。(企業が相手なら、上司の言いなりになることや、ブラック企業間を転々とすることが、交渉力を向上するとは限りません。)
これから仕事をする皆さんには、搾取されている人たちが苦しんでいる要因を、感情論だけでなく、構造で理解し、どのように搾取されないポジションを確立するかを考えて欲しいと願っております。
追記
これは強者だろうが弱者だろうが、交渉する人全員に当てはまるメカニズムです。あなたがこの考え方が好きだろうと嫌いだろうと、間違っていると思おうと思うまいと、これは僕の考えではなく交渉の基本的なルールで、交渉について勉強すれば最初に書いてあります。
全てのルールには、ルール自体が気に入らない人がいます。ここで大事なのは、「これがルールであるという現実を認めるという恐怖」と戦う勇気があるかどうかです。「それは強者の論理だから弱者には関係ない」という考えを捨てる勇気を持たずに、状況を変えるのは本当に難しいでしょう。
環境とか構造とか仕組みとか、そういう難しい何かが悪いのもそのとおりなんです。違法なことをしている企業は是正されるべきです。団体で交渉してなんとかなるならすればいいでしょう。他にも色々そういう細かい話はありますし、こうした社会的要素は解決されるべきです。ただ、環境を批判するだけで何もしないのであれば、自分だけでコントロールできる要素も実はかなりあると思って行動するべきではないでしょか。
「自分が不幸なのは自分のせいではない」と叫ぶことは、自分の人生の手綱から手を離してしまったのと一緒です。まさにそのプライドと自己肯定が次の一歩を踏み出す勇気を奪い、人を不幸な状況に閉じ込めるのです。まして、苦しみながら弱者の地位から抜け出す努力をしている人を横で見て、上から目線で達観しながら、自分の人生あきらめたような事を言っても寂しいだけです。
苦しいと思っている人は、まず落ち着きましょう。そして、構造を解明しましょう。これがルールであるという現実を直視する勇気を持ち、自分の力を信じ、自分はどんな選択肢が生み出せるのかを考えて欲しいのです。必要なのは被害者意識ではなく自分の人生に対する当事者意識ではないでしょうか。その手でなんとかできると信じなかったら、なんとかする力すら生まれません。
ほとんどの事は自分の手にゆだねられているし、正しいアプローチがあればきっと何とかできるものだと僕は信じています。