Centennialというのは、100の、という意味らしい。というわけで、4月8日は、Harvard Business Schoolの100周年記念日だった。
本日はパーティとなるわけだが、その前にHBSの戦略についてのケースが配られ、セクションのみんなでディスカッションが行われた。
以下、そのケースからのデータの引用。中にいる僕もけっこう驚く内容もあったので書いてみる。
設立
HBSは1908年に最初のMBAとして設立された。(ちなみに、ビジネスを科目として教えたのはWhartonが最初らしい)。1908年には32人が入学したらしい。僕らの年は900人ぐらいなので、かなり少なかったようだ。
ケース・スタディ
ケーススタディは1911年に導入されて、いわゆる現在使われているようなケース(経営者が置かれた立場を説明したストーリーと、関連する経営データがまとめられた小冊子)が最初に書
かれたのは1921年のことである。General Shoe
という名の1ページのケースであった。それから20年、HBSはケースメソッドを貫いており、世界で使われているケースのほとんどがHBSで書かれたもの
である。
この、全てケースを使った授業というのは賛否両論で、特にファイナンスで問題が噴出する。普通のMBAだと、本の中の理論を丁寧に教えてくれるのに、HBSだと「コーポレート・ファイナンス」という分厚い本を学生に渡して「読んどいて」だけ。で、この本の内容がわかっているという前提でケースが進むので、ファイナンスの理論を一から勉強したい人にはしんどい。結局、HBSでは、理論を教えてくれず、理論を使った意思決定を教えるところだ、ということだろう。
HBSの利益
実は、HBSの利益はかなり少ない。2008年度の利益(予測)はたった16億円。MBAの授業料は82億円、Executive
Educationは授業料96億円だが、授業料だけだとおそらく赤字90億円ぐらい。そこに、莫大な寄付金の運用益(利子みたいなもん)90億円が加わ
り、2億円の黒字。HBSの経費が異常に高いのは、おそらく教授陣の給与がかなり高いことが大きいとおもうが、他にもHBSの施設の維持費の高さもあるだろう。HBSはハーバードの他のキャンパスから切り離されており、建
物も広く、スポーツジムから医療クリニックから独自施設を持っているため、運営費がかなりかかっているはず。
ではどこから利益が出ているかというと、HBS
Publishingというケースや各種マネジメントの書籍を売っている部門。ここから利益が14億円出ているのだ。ただ、赤字部門であるMBAのブラン
ディングがあるから本から利益が出ているとも言えるので、この数字の見方は単純ではないだろう。
しっかし、寄付金の運用益が90億円って、すごいな。これのおかげでよい教育環境を使えると思うと、助かっているのではあるが。ちなみに、溜まっている寄付金の額は3000億円。2位のスタンフォードは900億円であることを考慮すると、異常に高い(でも、スタンフォードはMBAの規模自体1/3なので、学生あたりの寄付金は同じぐらいすごい)。
しかし、HBSの場合、授業料・生活費も半端じゃなく高いのに、MBAで利益が出ていないとは・・・。ちなみに僕も合格以降すでに3000万円ぐらい使っていると思われます。自分でもひく・・・。
卒業生の進路
学生の進路はFinance 45%、Consultingが22%、General
Managementが11%。卒業後1年目の収入の平均を少し書いてみる。現在はドルがかなり安く、これが続くと思えないので最近までの数字の120円
で換算すると、平均は約2000万円ちょい。一番人気45%のFinanceのうち、一番行く人が多いPEの平均は3200万円ちょいとけっこう高い。年収1億に乗せるのが最も簡単なのはおそらくPEだと思う。よ
く日本人のHBS生にヘッジファンドから問い合わせがくるのだが、ヘッジファンドの平均も3000万円ぐらいだろう。年収をいち早く10億・100億・1000億台に乗せたいなら、ヘッジファンドが一番近道(先週もここ半年で数千億円稼いだ人が授業にゲストとして来ていたけど、そんなに持っててどうするのだろうか・・・)。逆に、一番給料が安いのは小売業界で、平均1400万円ぐらい。卒業時の平均年齢が29とかなので、何にせよかなり高い・・・。しかし、HBSに来る人は、入る前からかなり給料が高い人が多いので、HBSに入ったから上がった、というだけではない。卒業後の平均年収は、年度にもよるが世界1、2位みたい。ひぇー。
と、いう話もありますが、
僕はお金で仕事を選ぶ気がないので、おそらく給料は高くならないでしょう・・・。よって、ここまで読んで「よし、古賀におごらせよう」と思ったあなたは大間違いです。むしろ僕には借金がある上資産ゼロなので、おごって下さい。
合格者の入学率
僕らの学年の合格者の入学率は91%。これはMBAを含めて世界のどの教育機関より高いということらしいが、本当かな?
留学生比率
留学生の割合は33%。ただ、このほとんどがアメリカでの生活経験が長く、他のMBAでいう留学生の比率とあまり比べられないだろう。英語圏で生活したことがないような留学生の割合はおそらく1%とかそこらだと思うので、よく「ふつうの留学生をほぼ入学させないくせに、33%というのはおかしい」という議論が出てくる。日本人の場合、留学経験があっても語学力不足で進級できないという事態がしばしば発生するが、こんな暴挙は他のMBAではほとんどありえない。でも、この妥協しない姿勢が教育のクオリティを保っているわけでもあるので、メリットも大きいことは事実だ。
女性比率
女性の比率は35%。これはおそらくどのMBAもそんなにかわらないだろう。おそらく男性のほうがアプリケーションがかなり多いと思うので、女性のほうが合格率が高い。ただ、もちろん女性の合格者もトップレベルのキャリアを歩んできている人ばかりなので、決して楽に入ったわけではない。
授業科目
HBSの一年目の授業は、セクションといわれる90人の同じクラスメイトとともに必修科目を受けることとなる。科目は以下の11で、一部意訳しているが、これがHBSが考える「経営の基本」であるようだ。
- リーダーシップと組織行動 (LEAD)
- リーダーシップと企業責任 (LCA)
- 戦略 (STRAT)
- ファイナンス 1 (FIN1)
- ファイナンス 2 (FIN2)
- アカウンティングとガバナンス (FRC)
- マーケティング (MKT)
- テクノロジーとオペレーション (TOM)
- 国際経済学 (BGIE)
- 起業とベンチャー経営 (ENT-MGR)
- 交渉 (NEG)
科目名は時代とともに変わってきたが、基本的な構成は50年前からほとんど変わらない。
HBSの抱える問題
現在のHBSの悩みは、色々ある。たとえば、いかにグローバル化に対応するか。たとえば、優秀な世界中の経営者をいかにExecutive Educationに入学させるか、世界中に経営者たちにHBS Publishingで公表する最新の経営理論を成長中に国のリーダーに浸透させるか、など。
さらに、競合の動きも変わってきている。1年生のMBAとか、テクノロジーにフォーカスしたMBAなど、学生のニーズの多様化に合わせた細分化の動きにど
う対応すべきか。最近はで企業内のマネジメント教育も充実してきており、そもそもMBAが不要という企業も増えてきている。オンラインで取れるMBAとい
うのも出てきている。
それから、MBAの教育のあり方そのものを考え直す必要があるのではないかというのもあるらしい。そもそも、マネジメントというのは本で勉強できるものだけではない。ファイナンスで企業価値の計算方法を知っているとか、マーケティングのコンジョイントアナリシスを知っているとか、そういう細かい分析ツールを知っているというのは、マネジメントにはつながらない。ビジネスのマネジメントには意思決定が必要であり、意思決定のためには色々な分析手法が役に立つことがあるというだけだ。にもかかわらず、最近のMBAは「マネジメントができないが頼まれた分析はできる」という分析君を育てる機関に成り下がっているというのだ。HBSは、マネジメントの教育とは何か、というのを問いただそうとしている。
とまあ、そんなケースディスカッションをしてから、100周年パーティに参加。
プレゼンも派手だったなー。
デザートまでこんなことになっている。
これが、「誕生日ケーキ」らしい。プラスチックじゃありません。ケーキです。食べたら死ぬって、絶対。
HBS設立100年目の卒業生というのも、なかなか感慨深いものだねえ。
(大学に関するデータは、HBSケースより。ただし、全て公になっているはず。自信がないところは数字を丸めてあります。)