Remember Who You Are

前回のエントリーで書いたように、現在、授業が終わるにあたり、経験豊富な教授陣から色々なメッセージを頂いている。

  • 信じた道を行きなさい。
  • 自分にとって何が幸せなのかをよく知りなさい。
  • お金に惑わされないようにして、楽しいと思える事、意味があると思える事をしなさい。
  • 喜んでリスクをとりなさい。保険などいらない。HBSを卒業した事こそが、最もすばらしい保険なのだから。
  • 自分の力を信じなさい。君たちの可能性は、君たちが思うよりはるかにすばらしいものであり、決してあなどってはいけない。
  • 世界は君たちを必要としている。だから、正しいことをしなさい。
  • 何歳になろうとも、夢を失ってはいけない。この年になった私(教授)ですら、まだまだ夢があるのだから。

前回書いたとおり、HBSの最後の授業での言葉は本として出版されている。これは、HBS生の僕ですら、大事に読んでいる。後輩のみんなも、まだ読んでなかったら読むといいよ。

しかし、実際のこうした教育内容にも関わらず、一歩外に出ると世界は違う目で僕たちを見る。これはインターネットでよく見る有名なコピペ。原文は英語で、出所不明。

メキシコの田舎町。海岸に小さなボートが停泊していた。 メキシコ人の漁師が小さな網に魚をとってきた。その魚はなんとも生きがいい。それを見たアメリカ人旅行者は、「すばらしい魚だね。どれくらいの時間、漁をしていたの」と尋ねた。すると漁師は「そんなに長い時間じゃないよ」と答えた。

旅行者が「もっと漁をしていたら、もっと魚が獲れたんだろうね。おしいなあ」と言うと、漁師は、自分と自分の家族が食べるにはこれで十分だと言った。 「そ
れじゃあ、あまった時間でいったい何をするの」と旅行者が聞くと、漁師は、「日が高くなるまでゆっくり寝て、それから漁に出る。戻ってきたら子どもと遊ん
で、女房とシエスタして。 夜になったら友達と一杯やって、ギターを弾いて、歌をうたって…ああ、これでもう一日終わりだね」

すると旅行者はまじめな顔で漁師に向かってこう言った。「ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した人間として、きみにアドバイスしよう。い
いかい、きみは毎日、もっと長い時間、漁をするべきだ。それであまった魚は売る。お金が貯まったら大きな漁船を買う。そうすると漁獲高は上がり、儲けも増
える。その儲けで漁船を2隻、3隻と増やしていくんだ。やがて大漁船団ができるまでね。そうしたら仲介人に魚を売るのはやめだ。自前の水産品加工工場を建
てて、そこに魚を入れる。その頃にはきみはこのちっぽけな村を出てメキソコシティに引っ越し、ロサンゼルス、ニューヨークへと進出していくだろう。きみは
マンハッタンのオフィスビルから企業の指揮をとるんだ」

漁師は尋ねた。

 「そうなるまでにどれくらいかかるのかね」

「二〇年、いやおそらく二五年でそこまでいくね」

「それからどうなるの」

「それから? そのときは本当にすごいことになるよ」と旅行者はにんまりと笑い、「今度は株を売却して、きみは億万長者になるのさ」

「それで?」

「そうしたら引退して、海岸近くの小さな村に住んで、日が高くなるまでゆっくり寝て、日中は釣りをしたり、子どもと遊んだり、奥さんと昼寝して過ごして、夜になったら友達と一杯やって、ギターを弾いて、歌をうたって過ごすんだ。どうだい。すばらしいだろう」

この話は、僕たちに対する皮肉であり、HBSで現実に教えていることとは真逆の事を言っている。つまり、自分が誰であり、何が自分を幸せにするのか、そのために何をするか・・・それを見失う典型的な連中は、僕たちのような人間だ、ということだ。でも、これはまさにその通りであり、だからこそHBSの教授も、「Remember Who You Are」と、わざわざ言わねばならないのだろう。

信じた道を行く事は、時にお金を稼ぐより遥かに難しい。お金を稼ぐのはテクニックを学べばできるかもしれないが、信じた道を行くためには圧倒的な自信と勇気が必要だ。たとえば、お金がもっともうかる会社から声がかかった時、「信じた道だから」というぼんやりした理由で断るのは、勇気がいるのだろう。まして、お金について学べば、いくら損するかがよりはっきりわかってしまうため、もっと勇気がいるようになるのかもしれない。そして僕らは流されていき、気づけば漁師に無意味なアドバイスをするようになり、HBSのMBAはバカ代表となる。

だから、そうならないように、僕もこうした意義ある批判は忘れないようにして、自分の信念を忘れないようにしたい。

もうすぐ卒業します

RIMG0021.JPG春が来て、色々な花が一気に咲き始めた。ようやく、ボストンから寒さが去りつつある。今日はAdmit Weekendといわれる、今年の9月に入学する合格者たちが世界から集まるイベントの日である。僕たちが来たのはちょうど二年前。日本からのAdmitの歓迎会が今夜行われる予定だ。

次の火曜日の授業が終われば、もう授業は終わり。そこから一週間ほど期末試験と論文書きがあるけど、基本的にはもう卒業ムードだ。僕も、読まなければならないケースを放っておいて、最近は友達と一緒に食事に出かけたり、イベントに参加して楽しんだりしている。セクションのみんなで笑いあいながらも、みんな卒業の寂しさから、つい夜遅くまで遊んでしまう。みな、30歳近い、いい大人ではあるが、卒業を迎えるときの喜びと寂しさのミックスはいつまでたっても変わらないし、どの国でも変わらないのだろう。ソーシャルネットワーキングのフェースブックでは、今になってリンクの申請がけっこうやってくる。

もう終わった授業もかなりある。HBSの名物である、生徒への愛情に満ちた教授の最後のスピーチをしんみりと聞く(どんな話か知りたい人は、を買ってみると良いと思います。レビューを見ると大体雰囲気はわかります。中古なら安いし)。その締めの言葉を受け、感動した学生たちは全員が立ち上がり、教授に対して盛大な拍手を送る。教授は、嬉しそうな、悲しそうな表情を見せながら、拍手の渦の中で、「ありがとう」と言って手を振りながら教室を出て行く。学生たちは、もう教授の帰ってこないドアにむかって拍手を続ける。それから、荷物をまとめ、近くに座っている同級生に「いい授業だったね」「またね」などと挨拶して、教室を離れていく。一人の学生が、この授業を受けた学生でフェースブックのグループを作ろう!といって、黒板にグループ名を書く。教室の外では、ひょっとしたらもう会えない仲間と卒業式前にご飯を食べようなんて話をしている学生が足をとめている。

ひたすら勉強し続け、永遠のように思われた時間が、急速に終わりに向かっていく。ああ、もう卒業なんだねえ。合格を知って、大学の後輩といきなり結婚し、ほとんどむりやり手を引っ張って日本を飛び出したあのときが、もう2年も昔なんだと思うと、めんたま飛び出るぐらいに驚く。

先日、一年生の皆さんに二年生の送別会を開いていただいた。みな、お礼を言ってくれて、寄せ書きまでもらってしまった。今頃期末試験などで忙しいだろうに・・・。僕らのほうこそ本当はもっと色々してあげられたら、と思っていたのだが、結局お互い勉強ばかりしていて一緒にすごす時間すらほとんどなかった。どうか、一年生のみんながよい成績で二年に上がれますように。

最近は、毎日のように見てきたBaker Libraryを見上げると、2年前のあのころと同じように「きれいな建物だなあ」とあらためて感動するのは、なぜだろうね。

春うらら、Centennial Birthday

Centennialというのは、100の、という意味らしい。というわけで、4月8日は、Harvard Business Schoolの100周年記念日だった。

本日はパーティとなるわけだが、その前にHBSの戦略についてのケースが配られ、セクションのみんなでディスカッションが行われた。

以下、そのケースからのデータの引用。中にいる僕もけっこう驚く内容もあったので書いてみる。

設立

HBSは1908年に最初のMBAとして設立された。(ちなみに、ビジネスを科目として教えたのはWhartonが最初らしい)。1908年には32人が入学したらしい。僕らの年は900人ぐらいなので、かなり少なかったようだ。

 

ケース・スタディ

ケーススタディは1911年に導入されて、いわゆる現在使われているようなケース(経営者が置かれた立場を説明したストーリーと、関連する経営データがまとめられた小冊子)が最初に書
かれたのは1921年のことである。General Shoe
という名の1ページのケースであった。それから20年、HBSはケースメソッドを貫いており、世界で使われているケースのほとんどがHBSで書かれたもの
である。

この、全てケースを使った授業というのは賛否両論で、特にファイナンスで問題が噴出する。普通のMBAだと、本の中の理論を丁寧に教えてくれるのに、HBSだと「コーポレート・ファイナンス」という分厚い本を学生に渡して「読んどいて」だけ。で、この本の内容がわかっているという前提でケースが進むので、ファイナンスの理論を一から勉強したい人にはしんどい。結局、HBSでは、理論を教えてくれず、理論を使った意思決定を教えるところだ、ということだろう。

HBSの利益

実は、HBSの利益はかなり少ない。2008年度の利益(予測)はたった16億円。MBAの授業料は82億円、Executive
Educationは授業料96億円だが、授業料だけだとおそらく赤字90億円ぐらい。そこに、莫大な寄付金の運用益(利子みたいなもん)90億円が加わ
り、2億円の黒字。HBSの経費が異常に高いのは、おそらく教授陣の給与がかなり高いことが大きいとおもうが、他にもHBSの施設の維持費の高さもあるだろう。HBSはハーバードの他のキャンパスから切り離されており、建
物も広く、スポーツジムから医療クリニックから独自施設を持っているため、運営費がかなりかかっているはず。

ではどこから利益が出ているかというと、HBS
Publishingというケースや各種マネジメントの書籍を売っている部門。ここから利益が14億円出ているのだ。ただ、赤字部門であるMBAのブラン
ディングがあるから本から利益が出ているとも言えるので、この数字の見方は単純ではないだろう。

しっかし、寄付金の運用益が90億円って、すごいな。これのおかげでよい教育環境を使えると思うと、助かっているのではあるが。ちなみに、溜まっている寄付金の額は3000億円。2位のスタンフォードは900億円であることを考慮すると、異常に高い(でも、スタンフォードはMBAの規模自体1/3なので、学生あたりの寄付金は同じぐらいすごい)。

しかし、HBSの場合、授業料・生活費も半端じゃなく高いのに、MBAで利益が出ていないとは・・・。ちなみに僕も合格以降すでに3000万円ぐらい使っていると思われます。自分でもひく・・・。

卒業生の進路

学生の進路はFinance 45%、Consultingが22%、General
Managementが11%。卒業後1年目の収入の平均を少し書いてみる。現在はドルがかなり安く、これが続くと思えないので最近までの数字の120円
で換算すると、平均は約2000万円ちょい。一番人気45%のFinanceのうち、一番行く人が多いPEの平均は3200万円ちょいとけっこう高い。年収1億に乗せるのが最も簡単なのはおそらくPEだと思う。よ
く日本人のHBS生にヘッジファンドから問い合わせがくるのだが、ヘッジファンドの平均も3000万円ぐらいだろう。年収をいち早く10億・100億・1000億台に乗せたいなら、ヘッジファンドが一番近道(先週もここ半年で数千億円稼いだ人が授業にゲストとして来ていたけど、そんなに持っててどうするのだろうか・・・)。逆に、一番給料が安いのは小売業界で、平均1400万円ぐらい。卒業時の平均年齢が29とかなので、何にせよかなり高い・・・。しかし、HBSに来る人は、入る前からかなり給料が高い人が多いので、HBSに入ったから上がった、というだけではない。卒業後の平均年収は、年度にもよるが世界1、2位みたい。ひぇー。

と、いう話もありますが、
僕はお金で仕事を選ぶ気がないので、おそらく給料は高くならないでしょう・・・。よって、ここまで読んで「よし、古賀におごらせよう」と思ったあなたは大間違いです。むしろ僕には借金がある上資産ゼロなので、おごって下さい

合格者の入学率

僕らの学年の合格者の入学率は91%。これはMBAを含めて世界のどの教育機関より高いということらしいが、本当かな?

留学生比率

留学生の割合は33%。ただ、このほとんどがアメリカでの生活経験が長く、他のMBAでいう留学生の比率とあまり比べられないだろう。英語圏で生活したことがないような留学生の割合はおそらく1%とかそこらだと思うので、よく「ふつうの留学生をほぼ入学させないくせに、33%というのはおかしい」という議論が出てくる。日本人の場合、留学経験があっても語学力不足で進級できないという事態がしばしば発生するが、こんな暴挙は他のMBAではほとんどありえない。でも、この妥協しない姿勢が教育のクオリティを保っているわけでもあるので、メリットも大きいことは事実だ。

女性比率

女性の比率は35%。これはおそらくどのMBAもそんなにかわらないだろう。おそらく男性のほうがアプリケーションがかなり多いと思うので、女性のほうが合格率が高い。ただ、もちろん女性の合格者もトップレベルのキャリアを歩んできている人ばかりなので、決して楽に入ったわけではない。

授業科目

HBSの一年目の授業は、セクションといわれる90人の同じクラスメイトとともに必修科目を受けることとなる。科目は以下の11で、一部意訳しているが、これがHBSが考える「経営の基本」であるようだ。

  • リーダーシップと組織行動 (LEAD)
  • リーダーシップと企業責任 (LCA)
  • 戦略 (STRAT)
  • ファイナンス 1 (FIN1)
  • ファイナンス 2 (FIN2)
  • アカウンティングとガバナンス (FRC)
  • マーケティング (MKT)
  • テクノロジーとオペレーション (TOM)
  • 国際経済学 (BGIE)
  • 起業とベンチャー経営 (ENT-MGR)
  • 交渉 (NEG)

科目名は時代とともに変わってきたが、基本的な構成は50年前からほとんど変わらない。

HBSの抱える問題

現在のHBSの悩みは、色々ある。たとえば、いかにグローバル化に対応するか。たとえば、優秀な世界中の経営者をいかにExecutive Educationに入学させるか、世界中に経営者たちにHBS Publishingで公表する最新の経営理論を成長中に国のリーダーに浸透させるか、など。

さらに、競合の動きも変わってきている。1年生のMBAとか、テクノロジーにフォーカスしたMBAなど、学生のニーズの多様化に合わせた細分化の動きにど
う対応すべきか。最近はで企業内のマネジメント教育も充実してきており、そもそもMBAが不要という企業も増えてきている。オンラインで取れるMBAとい
うのも出てきている。

それから、MBAの教育のあり方そのものを考え直す必要があるのではないかというのもあるらしい。そもそも、マネジメントというのは本で勉強できるものだけではない。ファイナンスで企業価値の計算方法を知っているとか、マーケティングのコンジョイントアナリシスを知っているとか、そういう細かい分析ツールを知っているというのは、マネジメントにはつながらない。ビジネスのマネジメントには意思決定が必要であり、意思決定のためには色々な分析手法が役に立つことがあるというだけだ。にもかかわらず、最近のMBAは「マネジメントができないが頼まれた分析はできる」という分析君を育てる機関に成り下がっているというのだ。HBSは、マネジメントの教育とは何か、というのを問いただそうとしている。

とまあ、そんなケースディスカッションをしてから、100周年パーティに参加。

プレゼンも派手だったなー。

デザートまでこんなことになっている。

これが、「誕生日ケーキ」らしい。プラスチックじゃありません。ケーキです。食べたら死ぬって、絶対。

HBS設立100年目の卒業生というのも、なかなか感慨深いものだねえ。

(大学に関するデータは、HBSケースより。ただし、全て公になっているはず。自信がないところは数字を丸めてあります。)

Roxbury

ちょっと用事があって、学校の帰りついでに車でおでかけ。RoxburyというBostonから15分ぐらい南にいったところにある町に行ってきた。しかし行こうとしていたお店が閉店してしまっており、しょうがないので近くにあったショッピングモールに入ってみた。

外から見ると、明らかに、ボストンのショッピングモールと雰囲気が違って、やや廃れた感じ。そして中に入ってみると、ヒスパニックと黒人しかいない。人はたくさんいるのに、白人はひとりもおらず、アジア人も僕ら以外は全くいないのであきらかに場違い感が漂う。モールの中のスーパーに入ってみたところ、僕がよく行くどのスーパーでも見たことがない商品ばかり(コピーブランドの類が多い)が売られている。値段は非常に安く、肉も半額ぐらいだが、初めてこういうところに来たのもあって「コレの品質は大丈夫なのか?」とちょっと不安に思ってしまった。もちろん、大丈夫なのだとは思うが・・・。

タクシーの運転手とか、レジの店員とか、HBSの教室に毎授業後に入ってくる掃除の人でさえも、肉体労働系の仕事はほとんどヒスパニックと黒人がやっている気がするとは思っていたが、仕事だけでなく住むところもスッパリ分かれているんだねえ。こういう光景を見ると、人種と経済レベルの強烈な相関関係を見せ付けられるようで、なんだかさびしいものである。