う~む、不景気だ
早いもので、もうクリスマスですね。みんなはどんな日を過ごしているかなー。こちらは息子も無事生後1ヶ月を過ぎて、家族みんな元気にしております。
あまりビジネスのことはここでは書かないようにしていますが、アメリカは不況の影響もあり、けっこうすごいことになってきたので、言及してみようかな。結構僕は今後の展望には悲観的なんだけど、世の中の結構アタマいい人たちが「実は大丈夫」といっている。彼らが正しいと信じたいんだけど、そういう人たちはたいていコンサルタントとかアナリストみたいな外から見ている人であるせいか、どうもしっくりこないんだよね。僕が肌で感じている状況は、こんな感じです。
アメリカの信用問題はこれから
僕の予想だと、このクリスマス商戦の結果が想定以上に悪くでると思う。でもアメリカ人はポジティブなので、それがどうしてやばいかに気づくのは3月ごろじゃないだろうか・・・。そうすると、アメリカにはサブプライムローン以外にも自動車ローンとかやばいのがいっぱいあるので、信用問題が広がるのはここからだと思う。そうなると、さらにドルは魅力が下がるので、売られてしまう。ドルが売られて安くなっていくと、誰もドル建ての投資をしなくなるので、さらにドルが売られて円が買われるかもしれない。ある程度まで進むと中央銀行は金利を上げて海外からの投資を誘致せざるを得なくなってくるんじゃないかな。一方で、金利が上がると、借金するのが難しくなるので、新しい投資も難しくなり、さらに国内経済が冷え込む・・・というサイクルになるのではないだろうか。アメリカ政府は短期的にはお金を投入するぐらいしかすることないわけだが、完全に焼け石ウォーターかと・・・。すでに起こってしまった投資において信用問題が発覚しました、というパターンにおいては、その処理が根本的に進まない限り景気は上向かないと思うよ。
日本のダメージは相対的には少なく、円高は続く
もちろん日本企業も厳しい状況になるが、「相対的には」悪くないと思う。もちろんトヨタみたいな、海外からの利益が上納金として入ってくる輸出につよい製造業なんかは、上納金が円高のせいで目減りするから業績は下がり、国内需要を満たすことによりがんばるしかなくなってくるかも。でも、そこで日本が強いのは、経済の三大要素・・・企業・家計・政府のうち、「家計」の貯蓄額が半端じゃなくでかいから、世界不況になっても購買意欲はそう簡単に劇的には落ちないようになっていることだよね。また、「企業」はサブプライムローン系の投資(CDSを使ったSynthetic CDOみたいなやつ)をあまりしてこなかったから、ヨーロッパみたいにダメージ直撃って感じでもない。「政府」は相変わらず機能してないけど、その他の二つがここにきて強いよね。だから円が高くなってるんだろうな。おかげで、アジアに強みのあるヘッジファンドに入った人は、日本に投資した株の価値が円高で上がって、けっこう調子いいみたい。しかし、アジアに弱いヘッジファンドで、ショート(空売り)ポジションをあまり取っていなかったところは、かなり終わってるっぽい。話がそれたけど。しかし、相対的な話を別にすれば、日本も厳しいし、特に契約社員の人の雇用は当面はあまりなさそうだ。
シリコンバレーの展望
では、シリコンバレーはどうか。シリコンバレーはウォールストリートとはあまりご近所ではないので、投資銀行とかヘッジファンドほど直撃はしていないものの、ハイテク産業というのは景気変動の影響を受けやすいので比較的早い段階でダメージがきている。また、ベンチャー企業はベンチャーキャピタル業界と密接しているため、金融業界のダメージを早い段階で受ける。
- 大企業や有望ハイテクベンチャーは、他業界より早くレイオフが進む
調子のいい大きな会社でもかなり今後の見通しが悪くなることを想定し、経費を削るのに躍起になっている。Googleも契約社員を1万人解雇し、Facebookもストックオプションの前倒し現金化プランを撤回した。ハイテク産業のレイオフは他の産業より「先取り」しているところもあるので、落ち着くのも早いかもしれない。
- アーリーステージベンチャーは苦戦するが、Fund raiseは可能
Seed ~ Series A (アーリーステージ) のベンチャーも厳しい。僕のハーバードの同級生たちで、起業準備をしてきた人たちは資金調達が全然できなくて、かなりかわいそう。資金調達ができたところも、Valuationが数ヶ月前より30%~50%下がっているのが相場のようだ。しかし、現在こういう「有望だけど買い叩けるベンチャーのための投資ファンド」がいくつか立ち上がっている(Accelはすでに10億ドルのファンドを立ち上げたし、その他ももうすぐクローズするファンドがあるというウワサをよく聞く)ので、資金調達自体は厳しいながらできるかもしれない。ただし、コスト削減など不景気に強いビジネスモデルが高く評価されそうだ。
- ブレイクイーブンしていないミドル・レイターステージのベンチャーがつぶれていく
最も厳しいのはSeries B~C (資金調達が2~3回目のステージにある) あたりが必要なベンチャーだ。このあたりのベンチャーに投資するためのキャピタルは特にダメージが大きく枯渇している。このタイミングでたまたまSeries B~CのFund Raisingしようとしているベンチャーは、残念ながら倒産するか、かなりの人数をレイオフして最小構成でビジネスをまわすか、事業自体をかなりの安値で売却するか、Valuationをありえないくらい下げてInternal Round(既存投資家の中から、ここでつぶすよりはちょっと投資しようかなというところを見つける)で追加投資を受けるか、という厳しい選択を迫られている。特にBtoBのビジネスはこの影響がでるのが早く、安定収入源となっていた契約が、契約相手の投資削減圧力のためにどんどん中断・延期されている。こうした中でもFund Raisingできているところは、キャッシュフローが直近でポジティブになるのがかなりかたいところぐらいだ。毎年12月はベンチャーが最も倒産するタイミングだが、今月はすごい数字が出るかもしれない。IPOのマーケットは来年は絶望的なので、今は成長より生き残りを優先するのが基本戦略となるだろう。
- ベンチャーキャピタルの倒産が続く。向こう2年で50%~70%がつぶれるというのが大方の予想
ベンチャーキャピタルはかなりつぶれそうだ。ベンチャーキャピタルというのは、ベンチャーに投資して、投資先がIPO(株式公開)か売却されることによって、その株を高値で売ってお金をもうける、というビジネスなわけだが、全体としてベンチャーキャピタルに投資するとリターンがマイナスになる見込みなのでLP(ベンチャーキャピタルとか、プライベートエクイティとか、ヘッジファンドとかに出資する「お金の本当の持ち主」)がベンチャーキャピタルに投資したいという意欲が急速に減っている。ここ数ヶ月だけで、(確か)世界最大のLPであるハーバード大学がその資金の少なくとも22%をスッたというニュースがある(この運用してるの、僕の一年生のときのリーダーシップの先生であるかカプラン先生なんだけど・・・彼はどうなるんだぁ!?)が、LPもお金がなくなってしまっているなか、マイナスのリターンの業界に投資するというのは正気の沙汰ではなく、本当に運用成績がよいトップのベンチャーキャピタルにしか投資できなくなる、というわけだ。最近はキャピタルコール(ベンチャーキャピタルが、LPが投資すると約束したお金を振り込んでくれとお願いする行為)にたいして、ごめんやっぱ払えないわ、とって契約破棄するLPが出つつあり、こういうことをされると大きなベンチャーキャピタル以外はかなり窮地に立たされる。こんな状態では、ベンチャーキャピタル産業自体がしぼむのもむりはない。
ベンチャーキャピタルとしても、もはや現状のビジネスモデルでは運営ができなくなる日は近い。ベンチャーキャピタルというのは、いくつかファンドというものを持っていて、そのファンドには寿命があるので新しいファンドを立ち上げ続けない限り、ベンチャーキャピタルからお金は消えていく。さらに、ロックアップピリオド(規定の年数はLPがお金を引き出せないけど、それを過ぎると引き出してもいいし、引き出さなくてもいいというルール)が過ぎたファンドからは一気にお金が引かれていくだろうなあ。お金が引かれると、何が問題なのか?ベンチャーキャピタルというのは、持っているファンドの金額の2%ぐらいを、年間のマネジメントフィーとしてファンドから引き、さらに元の資本に対して投資で増えた分の20%ぐらいをさらにパフォーマンスフィーとして徴収する。しかしこのIPOが冷え込んだ状態ではこのアップサイドの20%に頼れるはずもなく、マネジメントフィーで食いつながないといけないので、ファンドの金額の規模が頼りなのだ。しかし、計算してみよう。10億円の2%が2000万円だ。ここから世界のあちこちをアドバイスして回る経費や、税金、健康保険などを引くことを考えると、シリコンバレーの給与水準では若者一人も雇えない(新卒エンジニアで1,000万円とかいう世界)。そう考えると、アップサイドが見込めなくなったベンチャーキャピタルは、相当な額のファンドがない限り、つぶれるしかないのだ。
- トップのベンチャーキャピタルは生き残り、よい案件が残される
有力なベンチャーキャピタルはそういうのを知っていて、12月中に新しいファンドをクローズしている。来年になればさらに景気が冷え込み、新たなファンドの立ち上げがメチャクチャ難しくなることを知っているから、今のうちに「来年はベンチャーを安く買い叩けるから、2~3年のスパンでみればかなりの運用成績を出せます!」といって一気に集めているのだ。しかしそういうことができる実力のあるところは数も少ない。あまりに多くのベンチャーキャピタルが、来年にはFundを立ち上げないと・・・と思っており、それに投資できるお金をもったLPが来年にはあまりにも減りそうだ。そうなると、ベンチャーキャピタルは、ファンドの額が目減りしていくなか、じわりじわりと人を解雇せざるを得なくなり、ゆっくりと死んでいく。一方で、ここを乗り切るだけの運用規模がすでにあるところや、年内に新しいファンドを立ち上げられたやりてのところは生き残る。もとから、「よい投資案件はよいベンチャーキャピタルにしかいかない」というのがこの業界の常識だが、今後はもっとその傾向が加速するだろう。
そんなわけで、もとから仕事の流動性が高いシリコンバレーでも、これからしばらくはさらにバタバタしそうです。この変革の時期にここにいられるって、とてもアンラッキーなようだけど、とてもよい成長の機会だと思っています。
こういう厳しい経済状況ではなかなかビジネスが思い通りにいかないので、
- 自分のスキルアップにフォーカスし将来に備える!
- 自分が厳しい状況だからこそやさしさを忘れない!
- 前向きに何でも笑い飛ばす!
と、心がけていこうと思う今日この頃であります。
ちょっと子供も小さいので、今年は年末年始はアメリカでのんびり過ごしまーす。
なんか全体として悲観的な内容ですが、最後が楽観的でいいですね。
確かにアメリカ人は楽観的だというのはおっしゃる通りで、事態が深刻になればなるほどその楽観性が後で大きく影響すると思います。自分の関係した内外の仕事で、プロジェクトがその楽観性故にずるずると遅れていくという状況を見ております。
しかし気づいたときのアクションが早いのも事実です。
日本ではお金が回らなくなっていたときに消費税が5%になって、さらにお金が回らなくなって、こりゃいかんと、小渕首相がお金をじゃぶじゃぶ使い始めてようやくお金が回り始めて、景気が回復してきた訳ですが、この間に10年かかっているのはやはり時間がかかり過ぎだと思います。アメリカの場合はこの周期がもっと速まると思います。ただ、今現在はお金をどうしようもないところへ回そうとしていること(つぶれるべき金融機関や車屋さんは何もしないでつぶれるのを待った方がいいとおもいます)と、お金を回そうとして輪転機をまわしてお金を刷ると、今度はインフレおよびドルの下落が始まるということの二点が気になります。
そういう意味でも今後が楽しみですね。
もっちーさん
確かに!日本の意思決定文化は合意をベースとしているので、日本人はそもそも「早期に意思決定するのが仕事である職業」、つまり「政治」に向いていないですよね。意見が分かれている間は実行できないため動きが遅い!そのあたり、アメリカは合意が得られなくてもリーダーシップで押し切ることができるので意思決定が早いのはうらやましい・・・。
僕が思うのは、アメリカ政府は直近でできることが本当にないんだと思います。金融改革とかR&Dに投資みたいな「堅実な施策」はロングタームでしか効かないので、景気の悪化は止められない。となると今できる事は、本質的でなくとも一般の国民の目につきやすいところ(金融・自動車)で、「政府は対策しているから大丈夫だ感」を見せ付け、見せかけの安心感を与えることで投資家のパニックを防ぎ、株式市場が崩壊しないようにするぐらいしかないんではないかと思います。まあ、すぐにこれも効果がなかったことがバレるんじゃないかと僕は思いますが、直近で「対策してる感」をアピールする方法としてはわかりやすい。たとえばアメリカ人が誇りに思っている自動車産業がつぶれてしまったら、国民が事態のやばさに気づいてしまいますから、それは避けたいのだと思います。