正月西日本一周青春18切符極貧の旅: Day 5
フェリーと星空
日付が変わったのは、夜の瀬戸内で四国へ向かうフェリーの中。
フェリーの2等席には、殆ど人影はない。数百人乗りの椅子に6人くらいが座っている。乗客だけでは間違いなく予算をとれていないだろうけど、きっと貨物があるのだろう。客席にいても面白くないので、僕は寒い中、甲板に出た。甲板にも人はいない。風邪が痺れるほど冷えている。僕はフードをきつく縛って、外を眺めた。目が慣れてくると、恐ろしいほど星がよく見える。東京ではこんなに星が見られる事はまず無い。
こうして見ると、程昔の人が星を天球に張り付いたものだと考えたのもわかる気がする。星はある一定の高さに張り付けられてゆらゆらと輝いていた。
僕は凍てつく風の中、冷たい甲板の上で大の字に寝そべりずっと空を眺めた。そのままフェリーは、真っ黒い夜の瀬戸内を進んでいった。なんだか、船が闇に吸い込まれていくようだった。
八幡浜と野宿
僕は客船の椅子を5つ占領して眠っていたが、気づくと誰もいなくなっていたので急いで降りた。愛媛県の八幡浜にフェリーは到着したようだ。
今夜中の1時半だ。JRの始発まではまだまだある。でもJRの駅が何処なのかすら解らないし、潮風がものすごく冷たいので移動できない。だがこのフェリー乗り場の周辺には何も無い・・・。さまよいながら、近くの交番へ行ってみたが誰もいない。困った。どうやって朝を迎えるか。 ホテルが無い。此所が何処だか解らない。寒過ぎて移動できない。風が強く雪がちらついている。
という事で、動いても無駄なのでこのフェリー乗り場の端で野宿する事にした。寒くないのかって?ははは、寒い。死にそうだ。 でもまあいいや。たぶん死なない。
気が付くと、野良猫が寄ってきた。よくじゃれる若い猫だ。風邪を引いているらしく、くしゃみをしている。 にーとひと声出してから、僕の顔をじっと見た。僕は、また手持ちの干し肉をその猫に与えた。しかしその猫は、その干し肉で玩具にしてじゃれて遊んでいて、ちっとも食べようとしない。参った。せっかくあげた食べ物なのに、遊ばれてる。恐らく、鼻が詰まって食べ物だと認識できないのだろう。猫は匂いで食べ物を判断するので、鼻が詰まると物を食べなくなって、危険になる事もある。 さらに、干し肉もかなり冷えていたので、発する匂いも少ない事だろう。とにかく、お互い寒いので、僕はその野良猫を抱いて眠った。
数時間後、 目が覚めると野良猫は気持ちよさそうに僕に張り付いていた。僕はごめんねと言いながらその猫をどけて、地図を頼りにまだ暗い道を歩いてJRの八幡浜駅に向かった。
愛媛と車掌さん
寒い。早く電車の暖房で暖まりたかった。そして電車に乗った。その電車は、正確には「電車」ではなく、ディーゼル車だったが、なんて呼べばいいのかわからないので電車と呼ぶ。
一輌編成なのに、僕だけしか乗っていないその電車は、ちっとも暖かくない。突然若い車掌さんが僕の所にやってきて、暖かい缶コーヒーをくれた。
「暖房壊れとるんよ。でも山を登るころには あったまるかもしれんけん。わからんけど。」と言った。「コーヒー暖かいうちに飲んで。 この電車なあ、駄目なんよ。ひょっとしたら山によう登らんかもしれんけん。動かなくなったら戻ってくるかもしれんけん、そしたら動かすの手伝ってね。一人だと時間がかかるけん。いい?覚悟してね?」と言われた。凄すぎる。押すのか、電車を。
まあ僕は急いでいるわけではないのでいいですよ、宛の無い旅ですので、と言った。すると、 「いいなあ、俺もそんな旅がしたいなあ。でもこの寒いのに野宿したの??ばっかじゃないの??」と言われた。
とにかく、電車は出発した。僕とお兄さんは気があったので楽しく話をしながら進む。途中、車内放送で「危険ですから運転手に話し掛けないでください」という声がした。「ああ、いいのいいの。俺が言わせるボタンをおしてるんじゃけん」と軽く流していた。押すな。「もう7回もこの電車山を登れずに帰ってきよるんよ。何回も直せっていっとるんやけどねえ。本当はちゃんと 送っていってやりたいんだけど、こればっかりはどうにもならん。あ、コーヒー暖かいうちに飲んで。」
そんなことを1時間くらい話して雪の中を進むと、電車は無事に終点の宇和島に着いた。
高知、徳島、香川、岡山、兵庫
宇和島で売店のおばちゃんと話しているうちに、窪川行きの汽車が来た。土佐くろしお鉄道という、ワンマン汽車に1時間半ほど揺られる。窪川から高知に行く途中、突然強烈な吐き気に襲われた。こいつはやばいと、次の駅で降りて休むと、気分は少しよくなった。しかし、おりた汽車の次の汽車は一時間しないと来なかったので、イヤというほどゆっくり休んだ。そのあと、途中で不法に特急に乗り込んだが、切符を調べに来たのでばれてしまい、 特急料金を払わされてしまった。うん、正義は勝つよね、やっぱり・・・。
高知駅はなかなかいい所だった。程よく都会で、なおかつすぐ近くに山が見える。海も近い。住むにはいい所だと思う。本州に戻らねばならないので、高知から北に向かった。
宇多津に着いた時には、もう夜だった。宇多津は、香川の上端で、そこから瀬戸大橋線が出ている。瀬戸大橋をしっかり見ておきたかったが、丁度その頃には暗くなってしまっていた。
しかし、気分は相変わらずすぐれない。本当は今日中に京都に行き、京都で2泊してから 東京に向かいたかった。明日から学校だけど。
青春18切符を京都で一日使わずにおいて、次の日にまた使おうとしたのだ。しかし、この状態で京都で宿を探すのは可成きついと思われ、前に泊まった姫路のカプセルホテルにもう一泊する事にした。
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