シンガポール vs 日米

どりあん!

・・・は、タクシー持込禁止。

・・・というわけで、シンガポール出張行って来ました。

ボストンからだと移動時間が30時間ということでけっこう長いフライトだったけど、機内で寝まくったのでわりと大丈夫でした。

まる4日間ということで短かったといえば短かったのだが、どの国にいってもハーバード・ビジネス・スクールの卒業生が政府、政府系ファンド、投資ファンド、コンサルティング、大手企業の要職に必ずといっていいほど入っているので、彼らにアポを入れて会うだけで大体国の裏事情まで把握できるのでとっても助かる。HBSは人数も多いからね。

政府組織であるEDB (Economic Development Board) の建物から。

眺めがいいはずが・・・シンガポールはよく雨が降るらしい。

シンガポールのすごさはうわさどおりで、すごかった。面白かった!

先進国っぽい町並みで、

奇抜な建物がよく見受けられて(ナンカ乗ってる!!!)

ホテルの朝食も世界中の料理が食べられて、

アジア料理もおいしくて、

コンビニには日本っぽいものも売っていて、

ショッピングモールはきれいで、

店のラインナップもすばらしい!

というわけで、ユニークで、面白い国だと思う。色々面白いと思ったことはあるのだが、今回は、日本・アメリカと比較して、間逆だなーと思ったところについて書いてみたいと思います!といっても所詮4日間の知識なので、もし勘違いがあったら教えてくださいませ。

1. 日本との比較

日本と間逆のところは、語りつくされているところだが、政府の戦略性だ。都市計画から富裕層・外資企業の誘致まで、ものすごく詳細に決まっている。恣意的に作られたすべての社会インフラ。お金によるアメ(補助金・低い所得・法人税)とムチ(少しでも政府が気に入らないことにはすごい罰金や認可料金が取られる)。全てが驚くべきほど戦略的に決まっている。

都市計画は全部政府がやっとります

こんな小さな国でここまで政府を戦略的にするには人材がボトルネックだと思うのだが、これもうまいことやっている。そもそも政府のほうが民間のより給料が高く億単位になったりする。国内の優秀な学生には豊富な奨学金とトップ官僚の席が用意されており完全に囲い込まれている。国外からはクレイトン・クリステンセン教授とか大前研一さんのような経営戦略のプロ(政治のプロではない)を招聘し、コンサルタントとして使いまくって国家戦略を立てている。細部の計画でも高額な経営戦略コンサルタントを湯水のように利用しており、駅の設計すらもサプライチェーンマネジメント(流ではなく流を最適化)の計画を立てさせるので異常なまでに効率がいい。

ラッシュだが、東京よりはるかにまし。あの山手線の混雑具合は

ちゃんと計画さえされていれば避けられたのかもしれない。。。

ちなみにこうした経営戦略のプロが日本をスルーしているのではない。日本政府が彼らをスルーしているのだ。そもそも、シンガポール政府は、クリステンセン教授の「The Great Disruption」という2001年の日本のイノベーションの弱体化と建て直しの為の戦略に関する論文を読んで、「シンガポールが日本のようにならないように早急に戦略を立てて欲しい」と依頼したのだ。そして日本政府は本論文をスルー。大前研一さんもシンガポールの国家アドバイザーだがそもそも日本人だし、日本向けの提案(道州制の導入とか)もがんばっているが、日本政府にスルーされている。まぁ既得権益にすがる人たちがそんな日本のためになることは許すまい(笑)。

いやーしかしこりゃ、シンガポールでビジネス立ち上げるなら、政府が嫌がっている事をやったら瞬殺されますな、これは。立ち上げるなら僕たちのようにベンチャーをやるというより、投資の仕事をお勧めします(笑)。

2. アメリカとの比較

アメリカと間逆のところ国民の幸せを政府がコントロールしている事である。アメリカでは、個人の自由意志によって決められている。

前述の政府のアメとムチはシンガポール社会に浸透した幸せの道しるべである。どう合理的に考えてもムチよりアメを受け取るべきであり、アメをたくさん受け取ったものが成功者でなので、要するに政府の言うとおりに生きることが幸せへの最短距離である。お金だけではない。シンガポールでは、どんな家に住んで、どこでどんな買い物をするのか、どこでデートするのか・・・ほとんどが政府によってコントロールされている。

国民にものすごく厳しい一方で、ふとゆるい部分が見受けられるが、これは意図的に作られたガス抜き用の抜け穴である。例えば、アジア人は路上の屋台が大好きだが、政府は露店のようなコントロールしにくい商売行動を許す理由がないので、ごく一部のエリアでだけ許可をし、残りの場所を全部禁止する。文化すら操作対象

カジノも一部では合法

シンガポールの幸せコントロールは露骨である。駅についていたのでちらっと寄ってみた政府の住宅ギャラリー(注:90%は政府が作った集合住宅)では、「あなたがここに住めばこんなに幸せです」という洗脳感まるだしの幸せそうな家族の姿がこれでもかとばかりにあちこちの壁一面に描かれている。こうやってあらゆるところで人々をコントロールするんだな。

        なにこのハッピー感

ちなみに、アメリカ人から見ると、「こんな飼育されているような人生は、本当の幸せではない」と思うであろうし、シンガポールで行われている政府による規制の多くがアメリカでは人権侵害で違法になるだろう。例えば集合住宅の話を続けると、各棟ごとに「人種別の残り収容可能人数」が決まっている(中国人何人、マレー人何人、インド人何人・・・)。人種によって家を決めるのはアメリカではEXTREMELY ILLEGAL・・・めちゃくちゃ違法!である。(アメリカでは差別を防止するために、すべての人種を平等に扱わなければならない)。

 

ハウジングオフィスの右上、電光掲示板をよく見ると・・・

上のほうに、Ethnic Available(入居可能な人種の残数)とある。

だが、本当に個人に任せる事が正しいのだろうか?結局アメリカでは人種による差別を禁止し、個人の自由意志に任せた結果、白人が住む地域と黒人が住む地域がハッキリ分かれてしまっている。シンガポール政府は強制的に共存させて政治的対立が起こらないようにしているのだがむしろこのほうが差別防止のためにはいいかもしれない。

なんにせよ、個人の自由意志に任せるからこそ社会が不幸になることもあるし、だからと言って何でも政府が決めるのが人権侵害というのは間違いではないし、結局どちらが正しいという問題ではなく戦略の問題であろう。ただ、とにかく間逆であるのが面白い。

というわけで、日本ともアメリカとも全然違う、とってもユニークな国なので色々な意味で非常に刺激を受けた。やっぱり現地に直接出向いてみないと本当の国の姿は見えないね。もっといろんな国で仕事をしないと、成長速度が鈍るばかりだなあ、と痛感した出張でした。

ちなみに、最近若い人がよくシンガポールに脱出するのもうなずける。シリコンバレーに匹敵する国際性で、日本食やアジア食もおいしい。英語も通じるし。別にどこの国でもよくて、手軽に国外脱出したいなら、たぶんシンガポールが楽だと思います。(最近は昔ほどは楽ではないみたいですが、それでもアメリカよりはずっと楽だと思います。)

余談:

奥さんに、「マーライオンを釣って刺身を持って帰ってきてね」頼まれていたので現地の会社の人にジョークでマーライオンのサシミをくれと頼んでみたら、「Mr. Koga、マーライオンは実在しないんです」と言われた。

すみません。

9 replies
  1. ys
    ys says:

    人材がボトルネック、という話に絡んで先日シンガポール人の友人に、「政府は優秀な国民の数を増やすために中国から学生を『購入』してたことがあるんだゼ」という強烈な話を聞きました。
    一人当たり100万RMBだったかを中国政府に支払ってどっかの省から50人の優秀な学生を移民させ、当人に対しては国籍および衣食住と高等教育を与える代わりに数年間シンガポール国内で働くことを約束させるという条件だったそうです。
    投資銀行に勤めるその友人は、シンガポール人だけどそんな話聞いたことなかった(政府はさすがに大っぴらにはできなかったらしい)、同僚でありその学生の一人であった人がいて、知るに至ったそうで。まさに戦略国家。

    Reply
  2. 出目金魚
    出目金魚 says:

    前職の上司がシンガポールを「明るい北朝鮮」と形容していました。環境の変化に対応できずに破たんしないか心配です。超小国であれば大丈夫なのかもしれませんが、世界の中でそれなりのプレゼンスを持ち出していると思います。

    Reply
  3. k
    k says:

    >ys
    彼らは結局国営かその関連企業へ行ってしまうですよね。
    因みに彼らよりワンラング下の中国人へのビサ発給は厳しくなった(ソースはtwitter)人口構成もバランスしたいね。

    Reply
  4. Take
    Take says:

    ご無沙汰してます。
    シンガポール体験記楽しく読ませていただきました。
    私が滞在していた2008年から2年弱しか経ってないのにカジノが完成したりとすごい変化で驚きました。
    古賀さんも短い滞在期間でここまでよくわかるなーと感心しました。恥ずかしながら僕なんか2年もいたのに、HDB(公団住宅)が人種別になっているのを初めて知りました。
     おっしゃるとおり、海外脱出手段としてシンガポールは現実的かも知れませんね。話は少しずれますが、今回の参院選で当選したタリーズジャパン創業者の松田氏は立候補前までシンガポール住んでましたしね。またいろいろ教えてください。

    Reply
  5. yokichi
    yokichi says:

    >ysさん

    細かく見るといろんなことやってますねシンガポール政府。企業経営と比較しても、そのトップダウンの物事の考え方と、通常の国家運営の常識を無視したアプローチには関心します。

    >出目金魚さん

    明るい北朝鮮!確かに。。。おっしゃるとおり、この強力なコントロールが出ているのは、結果が出ているからですので、結果が出せなくなったときにどうなるのかは非常に興味深いところです。

    >Takeさん

    どこを見ても大きな工事が行われていて成長スピードがわかりますよね。非常に面白い国なので、ぜひ楽しんでください!情報収集に関しては色々と政府も現地企業も協力してくれますので、みなさんのおかげで結構何でも調べられます。このあたりもシンガポールはやりやすいですね。

    Reply
  6. ys
    ys says:

    > yokichiさん

    ガセじゃないと思うんですが与太みたいなはなしなのにレスありがとうございます。ブログのファン~Twitterファン(「隠れ」てないですよ)ですが嬉しく存じます。

    > yokichiさん&kさん

    後日談ですが、上述の「シンガポール人になった中国人同僚」が就労年齢に達したとき、シンガポールは経済停滞中で国内雇用を確保できなかったんだそうです。かくして彼はシンガポールの国籍を手に、私の友人が勤務するグローバルな投資銀行に就職ができたんだそうです。中国の山奥にお住まいだったご両親はすぐにシンガポールに呼び寄せたとのこと。日本国籍をもつ日本人の両親に引越もしたこともなく育てられた私には何が是で何が否なのか、まったくわからないながらも彼の年収が推定でミニマム20万米ドル以上だという話をきいて、とりあえずこれはいい話だったということにしたくなりました。

    Reply
  7. bobby
    bobby says:

    こんにちは。アジアではシンガポールと良く比較される香港で、なかなか大きくなれない「万年ベンチャー企業」の経営をやっています。いつも楽しく拝見させて頂いています。

    >政府が嫌がっている事をやったら瞬殺されますな、これは。立ち上げるなら僕たちのようにベンチャーをやるというより、

    開発独裁大国の中国のデベソのような香港は、いまでも経済的には十分にレッセフェールを保っています。ベンチャーをやるならぜひ香港へどうぞ。しかも、中国大陸へ進出する玄関口としても十分に楽しいメリットがあるようです。

    http://www.isl.hk/blog/bobby/archives/532

    Reply
  8. la dolce vita
    la dolce vita says:

    4日間でここまでわかっちゃうとは驚き!(でも確かに「戦略的」なだけに理解するのは簡単な国なんですよね。戦略ない国は理解するのに時間かかるけど)

    私たちがシンガポールを去った理由を思い出しました。

    このエントリー(↓)にのせた
    http://www.ladolcevita.jp/blog/global/2009/07/post-230.php
    60 Signs you’ve been in Singapore too longでもっとシンガポールがわかるかも?(あ、でもすでに古賀さんがほとんど書いてるけど)

    Reply
  9. yokichi
    yokichi says:

    la dolce vita さん、

    自分の足で色々歩いてみたのと、政府やファンドの人から情報収集できたことで、けっこうすぐに色々とわかりました。面白いと思ったことだけ書きましたが、もっと驚いたことがいっぱいありましたよ。

    ちなみに、僕も親になったらシンガポールを去ります。政府が仕組んだ受験戦争の先にある幸せを妄信されたくないと思ったので。政府のエリートの方々と会って、とっても優秀でimpressiveだったのと同時に、「ああ、この人は自分の人生について考える機会が与えられなかったのだなあ」と感じてしまいました。

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