人を殺さないロボットのイノベーションは日本から

ベンチャーキャピタルはベンチャー企業に対して資金と経営力を提供することでイノベーションを主導する立場にあるので、僕たちは世界のイノベーションのトレンドにはいつも注意を払っているのだが、日本発のイノベーションという意味では消費者向け(非・産業用)ロボット産業というのは長期的に面白い領域だ。

理由の一つは、日本人の大人は夢見がちで、本気で夢のような研究をしたがるからである。電気自動車のようなロングタームのコンセプトであっても特許は日本が独占している。アニメ産業に従事する人が多いのも近い。

だがそれよりおそらく重要な理由は、日本と欧米におけるロボットに対するイメージの違いである。日本人は子供の頃からロボットが大好きである。ロボットとは、ドラえもんのように僕たちを助けてくれる存在であり、アラレちゃんのようにかわいい存在であり、戦隊もののシメに必ず登場して悪のモンスターを断つ巨大ロボットであり、ガンダムのように人間の為に戦ってくれるもので、そりゃお台場に原寸台ガンダムを作っちゃうよという感じで大人になっても夢の為に投資をし続ける。しかし、欧米を見てみよう。基本的にロボットとは常に人を殺すものだ。ヒーローものに正義のロボットなどほとんど確実にでてこないし、1968年の映画「2001年宇宙の旅」でHAL9000が暴走してから、ロボットは大抵悪役なのである。スターウォーズにせよ、アイロボットにせよ、ターミネーターにせよ、基本的に存在意義は最初から人を殺す事か、または最初は味方でもAIが暴走して裏切るというのがお決まりのパターンである。

こういう価値観の違いの中で育った子供が大人になったときに、パパやママが二足歩行のロボットの研究開発をやっているとしたら、まわりの評価はどうだろうか?日本では、「かっこいい!夢がある!」だろう。僕も経営コンサルタントとしてバンダイロボット研究所のリアルドリーム・ドラえもんプロジェクトの方と、無線技術を使ったドラえもんの情報処理システムについて意見交換しにいったことがあるが、優秀な研究者たちが大真面目でドラえもんを作ろうとしている事だけは間違いない。しかし、欧米でロボットを作っているなどといおうものなら「人殺しの兵器を作っているに違いない」と周囲の人はたぶんドン引きだろう。とても夢があるなんてほめてもらえない。

そうなると、イノベーションのパターンに変化が生じる。日本はエンターテインメントロボットなど多用途の領域でイノベーションが発生するだろう。一方、欧米は軍事主導でイノベーションが発生する。

日本では、アイボのような商品がいちはやく市場投入された。しかし、完成度は大した事はない。ハーバードでアイボの開発に関わった教授によれば、アイボが犬型なのは、センサーや情報処理能力がまだ不完全だからである。人間型のロボットが人間の問いかけに対して正しい反応をできないと許されないが、犬だったらセンサーが情報を正しく拾えなくても、あるいは音声や近く情報の処理を間違えて反応しても許されてる。実際の犬もそうだから、ユーザーは「アラーアイボちゃん今日はゴキゲンわるいのかしら?」と思ってむしろプラスに捕らえられるのである。このように巧みな心理戦を駆使して、日本は多用途のロボットの可能性を模索している。一方、アメリカのiRobot社による自動掃除機ロボット「ルンバ」も同様にヒットしている。なかなか便利でカワイイやつだということで人気だが、良く見てみるとiRobot社は軍事ロボットの開発メーカーである。基本的に人殺しである戦争を補助する技術を転用しているので、アイボとのルーツは全く違う。同じロボット技術のイノベーションでも、思想が根底からちがうのは、こうした文化的背景からではないだろうか。

僕たちのような投資家から見た視点では、日本のロボット技術には欧米のロボット技術のように用途に具体性がない研究開発が多く、ビジネスとしてのリターンを短期的に追及できる技術はまだ少ない。例えば2速歩行で歩かせることにほとんど何の価値も無いが、日本企業はひたすら歩かせる技術に苦心しているなど、研究開発組織の自己満足的投資も多い。しかし、長期的にはこうした日本人の「人を殺さない平和なロボットの開発」への熱意は、いつか欧米人には実現できない、夢のような領域でのイノベーションを起こしてくれるのではないか、と期待しているので、今後も注視していきたい。

ロボット開発されているみなさん、応援しています!

 

P.S.

なぜ欧米人はそんなにロボットにビビっているのかは良くわからない。宗教観かもしれないし、性悪説かもしれないし、自分を重ね合わせられない存在(非・人間)をヒーローとして捕らえたがらないヒロイズムの問題かもしれない。なぜ日本人はそんなにロボット大好きなのかもわからない。アニメ産業の影響はやっぱり強いと思うけれども。何なんでしょうね。

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